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コラム
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とした  「攻撃」をやっております。

　
　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　07/10/18

「牛乳有害説」は信用できるか…著名教授の怪しい本

　新谷弘実著『病気にならない生き方』は100万部を超えたそうだ。この本で著者は牛乳はアレルギー体質と骨粗鬆症の原因になるばかりか、市販牛乳は脂肪分は酸化し、蛋白質も高温のため変質しているという、ある意味で最悪の食物だと述べている。

　本書によれば、著者は米国アルバートアインシュタイン大学外科教授で、35年前、世界で初めて大腸内視鏡によるポリープの切除に成功し、内視鏡医として過去30万例以上の胃腸を診てきたという有名な人物だそうだ。その豊富な例から「病気にならない生き方」を見出したという意味のことを述べている。

　新谷氏はミラクルエンザイム(奇跡の酵素)の存在を仮定する独自の説を主張する。ミラクルエンザイムは人体にある5000種のエンザイム(酵素)の元になる物質であり、「すべてはミラクルエンザイムで説明できる」として、それさえ摂れば病気にならないという説を展開する。

　本当なら夢のような話だが、ちょっと怪しい宗教に似ていてにわかに信じ難い。本の中で、新谷氏はもっともらしい説明をしているのだが、その説明が科学者らしくないのだ。例えば、ミラクル・エンザイムがどのような物質なのか全く説明がない。ということは全く分かっていないようだ。しかし不思議なことに酒やタバコ、食品添加物、農薬、薬、ストレス、環境汚染、電磁波はエンザイム(酵素)を消費するものだという(P57)。その根拠は一切示されない。

　また「私の治療したガン患者のガン再発率はゼロ」と書かれているが、これも夢のような話である。こんなすばらしい方法があるのならなぜ先に論文発表されないのか不思議である。本物なら権威ある雑誌ネイチャーでもサイエンスでも喜んで掲載するだろう。もっとも検査例は30万とあるが、治療した数は書かれていないので絶対数は不明だ。

　巻末に新谷氏のホームページの案内が載っている。ここには食事による健康法と共に「Drシンヤ推奨商品販売サイト」がある。本で推奨された説を実現したと思われる商品が並んでいる。 数千円〜数万円のエンザイム○○、○○ウォーター、228,900円の還元イオンウォーター生成器などが販売されている。

　本とホームページを一体とみなすならば薬事法に抵触する可能性はないのだろうか。効能を謳って「食品」を販売するのは違法であり、アガリクスでは同様の販売方法が違法とされた。

　疫学調査や、多くの論文の調査から導いたものではなく、多くの説明が思いつきの域をでない。とても信用できる本ではないにもかかわらず、100万部以上売れたことにより、少なからぬ影響を社会に及ぼしている。

　国内の牛乳消費が減りつづけ、昨年は過剰分1000トンが廃棄処分された。消費減少にこの本がどれくらい寄与しているかは明らかではないが、悪影響を与えているのは間違いないだろう(日本酪農乳業協会は抗議姿勢を示している)。

　長年、優良な食物として信じられてきた牛乳・乳製品を十分な根拠もなく、安易に否定し、それを世に公表するのは無責任である。牛乳を否定するのであれば、まず 十分な規模の疫学調査や実験に基づく研究を論文発表し、妥当性を確認してから一般書を出すべきだろう。

　言論の自由がある以上、いかに眉唾なものでも出版を禁止するわけにはいかない。またすべての出版社の見識に期待することも現実的ではない。この本に関しては06年に日経と毎日が簡単に取り上げたが、 どちらも及び腰である。水に「ありがとう」と書けば水が変わるなどという本を信じた教諭が小学校の授業でそれを教えたという例があったが、現在、眉唾本、トンデモ本の影響を抑える効果的な仕組みはない。同業の学者がもっと熱心に反論し、それをメディアが取り上げるのが有効だが、十分機能しているとは言えない。

                       
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